先日、とても興味深いご依頼を頂きました。

お寺で使う経机の天板の右半分を日本産漆で、左半分を外国産漆(中国産)で上塗りをして欲しいと言うものでした。
すでに下地が出来上がっていた経机の上に、日本産、外国産の漆をそれぞれ4回塗って完成させました。
今後、耐久性に関する長期テストを兼ねてお寺様で実際に使っていただくことになります。

まず作業中の様子ですが、やはり日本産漆のほうが適度な流動性があり、刷毛筋が落ち着き目立たなくなりました。
「塗り易い」と言う実感があります。
下塗り、中塗りを研磨する際も、砥石に付着する研磨カスが少なく、塗膜がしっかり締まった感じがあります。
硬化させる過程でも、日本産漆はゆっくり乾かしてもしっかり締まった硬化のしかたをするので、外国産漆よりも乾かし易いと言う感じを持ちました。

塗り上がりの感じですが、ここでもやはり黒色の深さ、艶の上がり具合ともに日本産漆のほうが優れているとの結果が出ました。
通常は日本産漆と外国産漆をこのように直接比較しながらの仕事をしたことがありませんので、やはり、「さすが日本産!」と実感する結果となり、いつも日本産漆を使うことが出来れば…と言う感想を持ったのは事実です。

ただ、「並行して直接両者を比べた場合」と言うことですので、必ずしも外国産漆が美しくないとか、柔らかく耐久性が無いと言うものではありません。
外国産漆でも、きちんと手を入れて仕事をすれば、漆本来の美しさを表現でき、なおかつ耐久性に富んだものになることは断言できます。
日本産漆が外国産漆の5〜10倍の価格差があることを考えると、外国産漆が決して無価値であるとは言えないと思います。
最近「外国産漆を塗っても3年しかもたない。」等の流布がありますが、もしそれが本当であれば、私がこの30年余りで手掛けてきたお寺様の仕事の大半が、もうすでにダメになってしまっているはずです。

なぜならお寺のように大量に漆を使用する場合、上塗りには日本産漆を使用する場合がありますが、下地や下塗り、中塗りには主に外国産漆を使用するからです。
国から文化財指定されていない民間のお寺様(大半のお寺様)の場合、下地からの全ての工程に日本産漆を使用すると、非現実なほどの価格となり、施工されるお寺様はまずおられないでしょう。

また、我々が使う漆を作っておられる漆の材料屋さんも、いくら外国産とは言え数年で劣化するような中途半端な品質のものを販売されることはありません。
しっかりした品質のものを自信を持って販売しておられます。
日本産であろうと外国産であろうと、3年で劣化すると言うのは、木地に油や蝋等の不純物が付着していたか、そうでなければ施工した塗師の技量不足か工程を省略した結果です。それは決して外国産漆を使用したからではありません。 漆の世界は一般の方々にはわかりにくい部分が多く、発言力のある方々がご自分達の都合の良い流布を広めるのは困ったことです。

我々のような「漆の実情」を知る者が、もっと社会に発言できる機会があれば良いのですが…

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