お寺様から修理の為にお預かりしていた香盤(長さ約50cm)が仕上がりました。

塗装面が浮き上がっていた天板の部分は、古い既存の漆や下地を全て剥がして木地を剥き出しにしました。
その際、この香盤は作られてから今回の修理で4回目の修理となることが判りました。
最初に京都で作られ、1度目の修理は同じく京都で。2度目は大阪、3度目はまた京都で修理されたと思われます。そして4回目が今回の修理となります。

産地によって材料が異なりますので、どこの産地による仕事か判別することが出来ます。
このように、何層にも重なった漆や下地の層から、その品物の歴史や、何十年、何百年前の職人がどのような材料や技法、技術を使っていたのかを知ることが出来ます。そして職人は、生きている間だけでなく、死後何十年、何百年経って後世の職人に自分の仕事を伝えることが出来ます。

この香盤は、修理された回数から恐らく200年程前に作られたものと思われます。
このように、歴史を重ねて来た品物は、いわば一つのタイムカプセルのような役目があるようにも思います。
後世の職人に伝統の技術を正確に残すため、伝統を忠実に守り、いい加減な仕事をする訳には行きません。

私は大阪の塗師ではありますが、大阪で一般的に用いられている膠(にかわ)を用いた下地を使わず、京都や石川県の輪島等の産地で使われている、より優れた下地である本堅地を用いていますので、次回この香盤を修理する塗師は、大阪の職人による修理とは思わないかも知れません。

天板はいつもお寺様の現場での仕事と同じく、麻布を貼った後に本堅地で下地を仕上げ、天然漆を刷毛塗りした後に蝋色で鏡面仕上げにしています。
もちろん全工程手作業によるもので、特に今回は手作業のみで限界まで歪みの無い鏡面を作ることに挑戦してみました。

歴史を積み重ねて来たお寺様のお道具を修理させて頂くことは、職人冥利に尽きます。

金箔を押す前

完成!

文字も読めるくらいの鏡面仕上げです

柱が映りこんでいますが全く歪みがないのがわかります。