以前、伝統的工法と近代化された工法の違いについてお話し致しましたが、今回は、伝統的工法に於ける下地も二つに大別されると言うお話です。

漆の伝統的工法に用いられる下地には、全ての工程に漆を用いる「本堅地ほんかたじと、漆の代わりに牛の骨から抽出したにかわを用いる「半田地はんだじ泥地どろじと呼ばれる下地があります。
いずれの場合も、砥の粉とのこ地の粉じのこと言う頁岩けつがんを粉砕した土を用いますが、それらを固める材料に、漆を用いるか膠を用いるかで大きな違いがあります。

まず本堅地についてです。
漆は硬化すると非常に硬くなり、強力な接着力もあります。
また、一度硬化すると、水や溶剤で溶け出すということが全くありません。
その為、漆を砥の粉や地の粉や米糊と混合した下地は硬化すると非常に堅牢で湿気や水気にも強いものとなります。
水や湯に晒される漆器のお椀などにもこの本堅地が用いられています。
非常に硬いという本堅地の性質上、研磨を進めにくいと言う点がありますが、逆にこの性質を利用することで研磨に於ける微調整が効くこととなります。
結果的に、手間はかかりますが平面を正確に平らにしたり、角や隅を鋭角的に仕上げることが出来ます。
工期が長くなることと、高価になるという点はありますが、現場での漆塗りに用いられる下地としてはやはり最高のものです。

次に、半田地、泥地についてです。
これは、砥の粉、地の粉や貝殻を砕いて粉末にした胡粉と牛の骨から抽出した膠を用います。
膠はコラーゲンやゼラチンを主成分とするもので、湯に溶解させた上で砥の粉や地の粉や胡粉と混合させます。
湯や水に溶解するので、当然ながら硬化した後も水や湯に晒されると溶け出しますし、湿気にも弱いです。
この下地の表面に漆を塗ると、平常時はある程度の堅牢さはあるのですが、僅かな傷や隙間から水気や湿気に晒され、溶け出して傷むことがよくあります。
また、研磨時には水で溶かしながら研磨するので作業は早いですが、正確な平面や鋭角的な角や隅を作り上げるのは困難です。
しかし漆の代わりに膠を用いることで工期を短く、材料費も安価にできると言う点はあります。

しかし、漆芸の人間国宝、松田権六氏の著書の中にも、膠を使った下地は「まがい」と呼ばれるとの記述もありますし、実際私どもの業界でも「まがい下地」と呼ばれることが多々ございます。

もちろん弊社では、全ての工程に漆を用いる最高の下地である「本堅地」を標準施工しております。膠を使った下地は用いておりません。

※単に胡粉地、砥の粉地と呼ばれる下地はいずれも膠を用いた半田地の一種で堅地ではありません。ご注意ください。